処理方法の違いによるウルシの発芽実験

ウルシの繁殖 ーウルシの木は自然に増えるか?ー

 岩手県二戸市浄法寺や茨城県北部、栃木県にウルシ畑があり、日本各地に小規模なウルシ畑と、人里にウルシの木が稀にあります。ウルシの木を伐採すると、根からウルシが生えてきますので枯らすのも大変なようです。しかし、ウルシ畑の周辺の山にはウルシは生えてなく、山地に自然に生えたとみられる木もありません。また、藩政時代に各地で栽培されていたものの現在は殆どないことからすると、自然には分布を拡大していないことが考えられます。ウルシ属やヌルデの果実は、カラス類やキツツキ類、ヒヨドリに採取されますが、これら鳥類がウルシのロウ成分を取り除くことが出来るかどうかが問題です。後述するようにロウ成分を取り除くことが出来なければ、ウルシ種子の発芽率が極めて低くなることが予想されます。

 ウルシの木を増やすには、有性繁殖(実生)と無性繁殖(分根)があります。ウルシの内果皮の表面にロウ成分をもっているため著しく給水が悪く、そのままでは発芽しない(数年後に発芽するかどうかは不明)。実生苗を育てるには、内果皮から種子の発芽を阻害するロウ成分を取り除く必要があり、濃硫酸処理と木灰処理があります。濃硫酸処理は、濃硫酸(濃度95%)に浸漬し、時々撹拌しながら10分間行う。木灰処理は100ccの熱湯に30ccの割合で混合し、70℃になったときに種子を入れで時々撹拌しながら1時間処理します。

 河原ほか(2012)によると、硫酸処理による発芽実験では、発芽のタイミングはばらつきが多く、5月~12月にかけて年間を通して発芽し、累計発芽率は浄法寺産ウルシが1.7%、網走産ウルシが5.7%のようです。浄法寺での聞き取りではウルシの種子の発芽率が悪いことは認識されており、この原因として訪花昆虫の不足により健全種子の割合、発芽率が低くなっていること、休眠性が高いため発芽がばらけることにより見かけの発芽率が悪くなっていると推測している。

河原孝行・滝久智・小岩俊行・田端雅進.2012.ウルシの繁殖生態.第123回日本森林学会大会,講演要旨,セッションID:MO4

ウルシの発芽実験(宮城県七ヶ宿産ウルシ種子:2017年5~6月

 ウルシの繁殖を確認するために発芽実験を行った。2017年4月4日から28℃に調整し、硫酸処理、木灰処理、無処理のウルシ種子の発芽実験(90粒)を行ったものの、発芽した個体はありませんでした。使用した種子の保管が不適で休眠打破していない可能性があるため、種子を冷蔵庫で3週間保管し、その後に処理をして発芽実験(90粒)を行いましたが発芽したものはありませんでした。なお、種子を半裁して確認した健全種子率は9.4%でした。浄法寺産の累計発芽率が1.7%のようですので、実験に用いた種子の個数が少ないこともあるかもしれません。次年度、種子の産地を変更して行う予定です。

 

 


 ウルシ内果皮(長軸6.4㎜)

ウルシの発芽実験(青森県八戸産ウルシ種子:2018年6~8月)

八戸産ウルシ種子では、硫酸処理した種子の2%が発芽しました。2018年9月頃までには発芽実験の詳細を掲載予定です。