クルミ属 (果実・種子) Juglans

 オニグルミの果実は6月頃になると中の種子の形がだいぶはっきりしてくるが、断面を見るとまだ子葉に栄養は貯まっていない。最外層の薄い外果皮には短毛が密布し、中果皮は肉質でやわらかい。秋になるとオニグルミとヒメグルミは完熟した果実がそのまま自然落下する。外果皮と肉質の中果皮はすぐに腐敗し始め、足で踏むと硬くなった内果皮が容易に露出する。カシグルミの場合は外果皮と中果皮が乾燥して裂け、内果皮だけが落下する。

 オニグルミの硬くなった内果皮断面を観察すると各所に空隙があるのがわかる。また、内果皮壁断面を拡大して見ると、外半分は細胞が緻密に詰まっているが、内半分には細かい空隙が沢山あることがわかる。これはかつて水流により遠方まで種子を散布し、分布を広げてきたためである。かつてはオニグルミは大きく、激しい突起が表面いっぱいにある厚い内果皮を持っていた。これは水散布だけに頼り被食を防いでいたためである。しかし、周辺の環境が変化し水散布が必ずしも有利ではなくなってしまったため、小動物に貯食されることにより分布拡大する平滑で小さいタイプである現在のオニグルミが生き残ってきたと推測されている。新潟県で産出した約130万年前のオオバタグルミには深い皺がある。

 リスやネズミはクルミの果実をかじって中の子葉を食べる。人間との採集競争である。リスとネズミはそれぞれ異なった食痕をつける。リスは内果皮の縫合線に沿って歯を差し込み、2つに割って中を削り取って全部食べてしまうが、ネズミは内果皮の壁に孔を開け、子葉の部分をかじりとって食べる。遺跡周辺の廃棄物層からは人間が割り跡をつけたクルミのほかに、ネズミの食痕がついたクルミも沢山出土する。
 オニグルミはリスやネズミに地中深く埋められることが多いので、地中30cmくらい埋積されても発芽して地上に現れる力がある。地面から抜け出すためになるべく抵抗が少ないように、アサガオのように双葉(子葉)は出さずに、地下に子葉を残したまま、上胚軸の部分を鎌首状にもたげて本葉だけを地上に持ち上げる。これを地下子葉性の発芽という。発芽して割れた内果皮を観察すると、人間のような砕けた割り跡や小動物の歯型のような削れた様子がなく、縫合線から平滑に割れている。

引用文献
百原新
. 2000. 「第三紀から第四紀への環境変化と植物相の変化」. プランタ,第69号. 20-25.

ヒメグルミの果実序

オニグルミ6月横断面

オニグルミ8月横断面

オニグルミ完熟内果皮横断面

(6月と8月の果実の緑色部分は外果皮と中果皮)

完熟した内果皮の断面

オオバタグルミ
  (百原, 2000)

ヒメグルミ内果皮

オニグルミ
ホンドリス食痕

オニグルミ
アカネズミ食痕

オニグルミ
割り跡(石皿と木槌)

オニグルミ内果皮