東北大学川渡演習林における石斧による伐採実験
使用しているのが直柄磨製石斧、鉛筆の削り後のよ
うになる

 クリ(シバグリ)は、九州から北海道中南部までの山野に分布している落葉高木である。クリの樹形は、日あたりの良い場所では半球形となるが、林内では下枝が枯死していく。野生はシバグリと呼ばれ、栽培グリと区別しているが同じ種類である。
 歴史的には完新世から頻繁に人間に利用されたと考えられ、多量に果皮が廃棄された跡(クリ塚)が縄文時代の遺跡周辺から発見されているほか、柱材などの加工木や木製品も多く出土している。

引用文献
岩瀬彬・工藤雄一郎. 2002. 「川渡農場伐採実験」. 人類誌集報2002. 東京都立大学考古学報告8. 147-170.

 花は5〜7月ごろに咲き、雄花は尾状花序で白色、開花時には約20cmになる。クリは虫媒花で、虫を引き寄せるため強く香り、花序は目立つように樹の上のほうに伸びる。これはシイ属などと同じである。雌花は雄花の基部につきほとんど目立たない。小さなうろこ状の緑色の総苞中央から赤い雌しべをのぞかせる。
 花粉型は三溝孔型、極観は円形、赤道観は楕円形である。極軸は18−20μm、赤道径は13−14μm。外層の発芽口は溝型で極方向に長く伸び、内層の発芽口は孔型で横長である。外層は外表層が発達する構造で外壁表面は顆粒状ないし平滑紋である。

南側からみた樹形

雄 花

花粉(赤道観)

 クリの材組織は年輪が明瞭な環孔材である。道管は早材部では大きく花弁状に配列し、晩材部では小さい道管が火炎状に配列する、特徴的な横断面を持つ。接線断面を見ると、道管の中には時々泡状にチロースが存在するのがわかる。細い紡錘形で細胞が縦に並んでいるのが放射組織で、幅はほとんど1細胞でまれに2細胞になる。接線断面に直交するように切った放射断面で、放射組織を見ると横に長い細胞が縦横に10数個連結している。

横断面

接線断面

放射断面

 東北大学農学部の川渡演習林における石斧による伐採実験では、直径16cmのクリを25分で、直径23cmのクリを46分で切り倒している(岩瀬ほか2002)。このときに用いたのは直柄という真直ぐな柄の石の磨製石斧である。最も切りやすく加工しやすいのは水分が多い6-7月頃である。この頃に切り倒したクリの樹皮はとても簡単に剥ぎ取ることができる。

クリ (花・花粉・木材) Castanea crenata

花と花粉

木 材