学会発表,講演などの予定

第18回日本植生史学会大会 
              2003年11月29(土)30(日)  
         岡山理科大学 国際学術交流センター 
         学会ホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/historbot/index.html

青森県の縄文時代遺跡から出土したウルシ属内果皮の同定 
      
                      伊藤由美子(青森県埋蔵文化財調査センター)・吉川 純子(古代の森研究舎) 
講演要旨の概要 
 
 ウルシ属(Rhus)は、ウルシ科(Anacardiaceae)に属し、日本にはツタウルシ、ヌルデ、ヤマウルシ、ハゼノキ、ヤマハゼ、ウルシの6種が分布する。そのうちウルシは、木から樹液を、果実からは蝋を採取するために古くから栽培され、日本列島には有史以前に持ち込まれた史前帰化植物と考えられている。また、北海道南茅部町の垣ノ島A遺跡では約9500年前から漆製品が出土し、古くから日本にウルシが分布し利用されていた可能性が指摘されている。
 
 ウルシが過去に日本で生育していたことを裏付けるには、木材・果実・花粉の各器官の化石が出土していることが必要になる。ウルシ属は、花粉及び木材化石は種間で近似しているため属レベルの同定にとどまるが、果実は種で同定できる。しかし、化石果実は外果皮及び蝋質の中果皮が失われてしまうため、ツタウルシとヤマウルシは同定できるが、ヤマハゼ、ハゼノキ、ウルシ、ヌルデは近似し区別できない。今回、青森県青森市岩渡小谷(4)遺跡と近野遺跡から出土したウルシ属果実化石の残存部位を検討し、それら部位について現生6種の内果皮表面の細胞形態及び壁構造を比較検討した。 
 
 分析は、走査電子顕微鏡(SEM)による内果皮表面観察と切片による内果皮壁構造の観察を行った。調査の結果以下の知見が得られた。
 1)現生ウルシ属の各種間には、SEM下での細胞構造および切片による断面の組織構造に明らかな差が認められた。特にウルシの組織構造は特徴的である。
 2)岩渡小谷(4)遺跡と近野遺跡から出土したウルシ属からは、内果皮表面と壁の組織構造に基づきウルシとツタウルシが同定された。したがって、縄文時代前期中葉〜後葉に日本にウルシが生育していた可能性が高い。また、近野遺跡縄文時代中期後半の木組み遺構内から炭化ウルシ種子が出土し、ウルシを利用していたことが示唆される。
 
 今後、化石ウルシ属内果実皮壁の厚さの変化が何に起因するのか、中国に分布するToxicodendronとの比較、時空的なウルシの分布と利用などを調査する必要がある。